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『ルベーグ積分30講』 志賀浩二著(その10)

第9講 カラテオドリの外測度

今のところすべてが構想段階であり、ルベーグ積分の具体的な理解はまったく得られていない。暗中模索のようであるが、数学では当然のことながら理論的決着が具体性に優先するのだろう。
具体的な計算は後のお楽しみとして、理論に付き合っていくしかないようだ。
ルベーグ測度の定義を振り返ってみると、可測性にとって次の二つが重要と思われる。
外測度の性質として、

 m^{*}(\large\cap\normalsize_{\iota=1}^{\infty} S_\iota)\le \displaystyle\sum_{\iota=1}^{\infty}m^{*}(S_\iota)

これは外測度が図形を覆い、図形からはみ出した部分がどんどん小さくなってゼロに近づいていくことから外測度の劣加法性 ≦ が成り立つことがイメージできる。
内測度の性質として

     m_{*}(S)\le m^{*}(S)     
この外測度と内測度の二つの性質から、次の可測性が定義されるのである。

     m_{*}(S)= m^{*}(S)       
外測度の性質をよくみると、これは外測度のはみ出した部分が限りなく無限小となり劣加法性の \le が = に一致して、完全加法性に移行することを意味している。
つまり外測度と内測度の一致は、外測度の劣加法性が完全加法性へ移行することでもある。
してみると、外測度の性質は直観で分かるが、内測度の性質はどのように証明されるのか振り返ってみると、それはまさにSを囲むJが所与であることと外測度から導出されるのである。 

 J=S\cup (J\cap S^C)              
これに上の外測度の劣加法性を適用すると

 |J|\le m^{*}(S)+m^{*}(J\cap S^C)      
移項すると左項は内測度に他ならない。

 |J|-m^{*}(J\cap S^C)\le m^{*}(S)   
こうしてみると外測度の劣加法性は外から覆うという当然の性質だから、内測度が外測度より小さいか等しいという性質が成り立つのは、図形Jを所与としてルベーグが内測度を定義しているからに他ならない。
図形Jが所与であるからこそ内測度が成り立つのであり、それが外測度と一致することにより可測性が定義されるのである。巧妙であるが直観で分かる程度の抽象度である。
(開集合である外測度のみを使って、閉集合である内測度との大小関係が定義できるというアイデアには驚嘆する)
しかしカラテオドリの外測度はこのJをなくしてしまうのであるから、難易度が相当高くなることが予想される。

本書ではルベーグの外測度については「性質」と述べ、可測性を「定義」としているが、カラテオドリの外測度については「定義」としている。その内容はルベーグとほぼ同じであるが、前回述べたように、m\le +\inftyとしている点だけが異なる。
カラテオドリの場合は定義であるから証明はなく、部分集合の元の個数、自然数R^kルベーグ外測度、直線上のルベーグ・スチルチェス外測度などが、カラテオドリの外測度の事例とされている。
カラテオドリの可測集合の定義は前回のとおりである。

集合Xの上に外測度m^{*}が与えられているとする、このときA\subset Xが可測であるとは、すべてのE\subset Xに対し次が成り立つことである。

 m^{*}(E)=m^{*}(E\cap A)+m^{*}(E\cap A^C)
この式は次式でも良いとされている。

 m^{*}(E)\ge m^{*}(E\cap A)+m^{*}(E\cap A^C) 
なぜなら外測度の劣加法性から

 m^{*}(E)\le m^{*}(E\cap A)+m^{*}(E\cap A^C)
であるから、その逆の不等号 \ge を充たせば = が成り立つからである。
この外測度の劣加法性を使う方法は面白い。ルベーグの場合は図形Aを覆う外測度ということで直観で \leとなることが理解できたが、カラテオドリの場合は、図形Aと交叉するEである。ただ、この場合も次図を見れば、次のように集合の関係が成り立つことがわかる。こんなけったいな図でAが測れるのかと思われるが、Aと交叉するすべてのEで成り立つことがAの可測性の条件であり、この図はその中の一つにすぎない。

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 E=(E\cap A)\cup (E\cap A^C) 

これに外測度の劣加法性の定義を適用すると、

  m^{*}(E)\le m^{*}(E\cap A)+m^{*}(E\cap A^C)
となり、上の式と同じになることが分かる。
A^C が成り立つのはA\subset Xを前提としているからである。
こうしてみると図形Aを囲むJを考えなくても、Aと交叉するEについても外測度の定義を当てはめて可測性を定義することが自然に思えてくる。
ただ、そのように定義された可測集合が一体どのようなものになるのかを明確にしておく必要がある。

これまでの流れを振り返ると、カラテオドリは集合Xに外測度の定義を与えて、まず劣加法性を成立させている。次に集合Xの部分集合Aについて可測性を定義しているのであるから、それはルベーグと同様に集合Aが完全加法性へ移行することを意味していると思われる。
だが、ここで本書が解明するのは、可測集合の性質ではなく、可測集合族(可測集合全体)の性質である。こういう風に数学は話がぶっ飛んでいくのでワケ分からなくなるのだが、落ち着いて次講を読んで振り返れば分かるのである。つまり可測集合に完全加法性が成り立つことは当たり前のことであり、可測集合列もまた完全加法性を持つことを証明して測度概念を完成させようとしているのである。
このため、可測集合全体を捉えるうえで、「ボレル集合体」または「\sigma-加法族」という概念が導入される。昔はこの聞き慣れない用語にムカついたものだが、単なるネーミングであり、要するに可測集合族と同じものである。同じであることから、より一般的に集合体の性質を示しているボレル集合体を使う利点があるに過ぎない。

ボレル集合体の定義
集合Xの部分集合族\betaが次の条件をみたすとき、\betaをボレル集合体または\sigma-加法族をつくるという。
(B1)\betaは少なくとも1つの部分集合を含む。
(B2)A\in \beta  \Rightarrow A^C\in \beta
(B3)A_n\in \beta \Rightarrow \large\cup\normalsize_{n=1}^{\infty}A_n\in \beta

この定義から様々な性質が導出されることになる。証明は本書を参照していただくとして、導出結果だけを列挙する。

 X,\phi \in \beta

 A,B\in \beta \Rightarrow A\cup B, A\cap B, A\setminus B\in \beta

 A_n\in \beta (n=1,2,...) \Rightarrow \large\cap\normalsize_{n=1}^{\infty}A_n\in \beta

可測集合族がボレル集合体と同じであることは次講で証明されるが、同じということは、これらのボレル集合体のもつ性質を使用できるということであり、集合の演算規則と測度の完全加法性が合体することを意味する。それがボレル集合体を使うことの利点であろう。こういう風になんべんもボレルとつぶやいていると慣れるかもしれない。