『ルベーグ積分30講』 志賀浩二著(その6)

第5講 ルベーグ外測度

位相もよく知らないのにルベーグ積分などに挑むのは無謀であるが、私が関心があるのは、数学的に扱えそうにない対象を数学的に扱うことができるかどうかである。このため集合と数体系との対応関係を理論化している測度論に関心がある。
これまでのところ、測度mが関数であることが分かった。それも入力は数値でなく集合である。
m(I)=b-aというのは、Iという集合を入力して数値b-aを出力している、つまり対応づけているのである。Iが半閉区間なので、数直線上の距離を示しているように誤解してしまうのだが、Iは集合であって数ではない。だから集合の包含による大小関係が、m関数による測度の大小関係に対応するかどうかが加法性の問題である。
では集合の大小関係は何に基づいているのかといえば、それは要素の包含関係であって、要素の数ではないことに留意しなければならない。

この場合、集合の要素は区別できれば何でも良いというのがポイントだと思う。だから数でなくても、サイコロの目の一つが出る事象でも良いのだ。それはたまたま1から6までの数だが、変なサイコロがあって動物の絵が描いてあっても要素は区別できる。場合の数を数えるのは区別できる要素を数えているのであって、数字を数えているのではない。
しかもサイコロのような6分割でなくて、無限分割の事象でも完全加法性が成り立つならば、分割した事象と数値の対応付けさえ定義しておけば、何でも計算可能になる。だから確率のグラフはX軸が数直線でなくても確率で良いのだ。測度論と確率論の相性のよさはそういうところにあるのだろう。だが確率でなくても集合関係があるものなら何でも数学的に扱えることになる。

ルベーグ外測度はジョルダン測度とあまり違いはないようにみえる。
ただ三番目の性質として有限加法性が無限になると劣加法性に変るのだが、その理由がよく分からない。
劣加法性というのは、例えば経済学には費用関数の劣加法性というのがあるが、要するに二つの企業で分けて生産するより、一つの大企業で一括生産した方がコストが安くなるということである。
f(x+y)\le f(x)+f(y)であるが、x,yが生産量、f(x),f(y)がコストになる。それと同じ関係が、ルベーグ外測度にもあるということである。
部分和が全体に等しくないのであれば面積が求まらないのではないかと心配になるが、この劣加法性は外測度との関係であって、面積は外測度と内測度の一致によって決まるのだから心配はない。
本書の証明では二番目の性質であるS\subset Tならば外測度のm(S)\le m(T)を使用している。
これはTSを含むのであれば、Tを覆うタイルがSを覆うタイルより大きいか等しいということで直観的に分かる。(ただ、外測度である以上、どちらも\inf \sumだから、等号は成り立たないと思うのだが、なぜ\leとなるのか不明である。S\subseteq Tなら分かるのだが。本書にもその説明はない)

<無限になるとはみ出しても、はみ出していない?>
三番目の性質である劣加法性の証明は、集合列S_nの中から一枚だけ抜いたSについて始めるのだが、このSを可算無限個のIで覆うのである。するとそれはSより少しはみ出るのだが、S+\Large \frac{\varepsilon}{2}\normalsizeよりははみ出ないような大きさにするのである。するとIの総計はS全体の外測度より大きいか等しいになる。
そして個々のS+\Large \frac{\varepsilon}{2^n}\normalsizeを無限に加えると{\varepsilon}になり、それも任意の正数だから、結局Iと個々のSの外測度の総和が等しくなって、それがS全体の外測度よりか大きいか等しいことになり劣加法性が成立するのである。
するとルベーグ外測度の劣加法性の根拠は、結局のところ、Sの外測度を{\varepsilon}の内側ではみ出るようにSを覆うことができることにあるようだ。不可能ではないと思うが、無限を扱うとそういうことが表面に出て来るのだろう。
これは有限個の方が分かり易いので、本書の(Ⅲ)の数式を修正してみると次のとおりである。

  m^{*}(S_1\cup S_2)\le \displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}|I_n^{(1)}|+\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}|I_n^{(2)}|<m^{*}(S_1)+\large\frac{\varepsilon}{2}\normalsize+m^{*}(S_2)+\large\frac{\varepsilon}{2^2}\normalsize


 このようにSの集合列が無限でなくても劣加法性が成り立つのだから、外測度に{\varepsilon}を加えるのはSの集合列が無限になっても{\varepsilon}が発散しないことを確認しているだけで、集合列Sが無限であることが劣加法性の根拠ではなく、I\Large\frac{\varepsilon}{2}\normalsizeより小さくはみ出るようにSを覆うことができることが劣加法性の根拠であることが分かる。

次に任意の長方形Iの外測度は|I|に等しいという証明があるが、これは結果よりも過程の方が興味深い。
証明ではIが開集合なので閉集合に変え、逆にそれを覆うJ(タイル)を開集合に変えて、有界閉集合は有限個の開集合で覆うことができるというコンパクト性をつかって有限問題に転換している。
なぜ、そんなことをするかであるが、開集合の場合、境界部分で次の被覆が作れるからである。

     I=\Large \cup_{\normalsize n=1}^{\normalsize \infty} J_n\normalsize

 この式はIを覆うタイルJを無限に小さくしていくとIと等しくなるということである。
なぜこれがマズイかは無限より有限の方が小さいので次のようになるからである。

     \Large \cup_{\normalsize n=1}^{\normalsize N}\subset I\normalsize

イメージとしては開集合の場合、境界部分において、内側からJをどんどん増やしていっても有限個ではIの境界部分に到達できず、無限個にすることでようやくIに一致するということである。
つまり無限個で一致するということは、有限個のJでは開集合のIを覆えなくなるということである。
やはり可算無限個のタイルで覆うルベーグ測度の場合は、無限が問題となるようだ。これは開集合の場合、集積点が境界線に属さないことと関係があるようだ。
証明結果よりも開集合を覆うときはそういう問題があることに留意する必要がある。