読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

『ルベーグ積分30講』 志賀浩二著(その5)

第4講 ふつうの面積概念 -ジョルダン測度-

測度概念は、「測る」ことの本質を捉えて、「k次元ユークリッド空間R^kにおける測度論を構成することを目指すものである。
k=1のときは長さ、k=2のときは面積、k=3のときは体積、ではk=4、k=5・・・のときはどうなるのか? それらに共通して含まれる考えを整理すれば、k次元という枠の中で総合的に考えることができるというわけである。

測度概念を考えていくうえで、1次元は数直線上に点が大小の順序に縛られていて特殊である。3次元は図形の配置状態がすぐに看取できない。よって2次元を対象として、その中にある数学的形式に注目することにより、一般のk次元における測度論の組立をみていくことにする。したがってこれから第7講までは2次元上の測度論に主題を絞られている。

(感想:著者は数学者だから、「測ること」の本質説明はこの段階ではまだ抑えられている。だが第1~3講においてもそのことは既に黙示されているのではないか。つまり、k次元上の対象を「測る」ということは、その対象を集合としてとらえ、その集合に大小関係が無矛盾となるようななんらかの数を対応させることである。1次元上の対象の場合は、区間を集合としてとらえ、その集合に、両端点の差による数値を対応させている。これは定義だから、その数を対応させれば大小関係が無矛盾になるというだけで、それ以外の理由はない。無矛盾でありさえすれば、他の数を区間集合に対応させても良いのである。測度m(I)とは、対応づけであり、集合Iを入力とし、b-aを出力する関数である。すると測度論とはk次元上の対象を集合とし、その集合に大小関係が無矛盾となるような数を対応させるルールであると予想される。ボレル集合などが出てくるのは集合演算と数の演算をリンクさせるためであろう。)

<面積に対するふつうの考え方>
測度の話の前に、古典的な面積概念を振り返る。
面積は図形に固有な概念として論議されなかったが、解析学の基礎づけとして必要が生じ、最初に明確な定義づけを行ったのはジョルダンである。
ジョルダン測度は、面積の常識的な考え方を反映したものである。
常識的考え方とは、四辺形の面積とは縦×横であるが、この考え方は単位四辺形の数の増大に一致している。(縦3×横5=15は、1×1の四辺形の15個分と一致する)
この面積の考え方には2つの要請がある。
(A)1辺の長さがabである長方形の面積はab
(B)STが共通点がないならば、和集合S\cup Tの面積はSの面積とTの面積の和となる。(重ならない単位四辺形の面積の合計が面積の値と一致するということ)

<内側から測った面積と外側から測った面積>
(私見:こうしてみると当たり前のことを言っているようであり、つまらんと思うかもしれないが、「面積」という言葉が出て来ると要注意であり、それはまだ本質概念として確定していないのだということを常に念頭に置く必要がある。上の(A)(B)は最初からabにより「単位面積」が決まったうえでの話である。しかし、著者がジョルダン測度について、それが「面積の常識的な考え方」という場合の「常識」とは、面積の本質を問わずに、単位面積を既知としたうえで、未知の面積を既知の面積で求める方法である。それが有限加法性によるジョルダン測度である。(なぜルベーグ測度のように完全加法性でなく有限加法性なのかは今の段階ではよく分からないが、推測すると、それは単位面積を一定の大きさにしているからかもしれない))
今、何らかの形をした図形Sがあり、そのSは長方形の中にある。長方形は次のとおりである。

  {(x, y)| a\le x<b,  c\le y<d}

この長方形をmn個のタイル状に分割する。

  a=x_0<x_1<x_2<・・・<x_n=b 

  c=y_0<y_1<y_2<・・・<y_n=d 

  J_{ij}={(x, y)| x_i\le x<x_{i+1},  y_j\le y<y_{j+1}}

    (i=0,1,・・・,n-1);(j=0,1,・・・,m-1)

この長方形の面積を次で表すことにする。

  |J_{ij}|=(x_{i+1}-x_i)(y_{j+1}-y_j)

(私見:本書には明記されていないが、念のため留意すべき点は次のとおりである。
①図形Sを中に含む四辺形の辺は半開区間で定義されており、これにあわせて、mn個の長方形(タイル)も同様に半開区間で定義されている。(隙間なく埋めるため)
mn個の長方形(タイル)の面積の求め方が1個分だけ定義されており、かつ大きさは未定である。(分割の仕方が等間隔とは限らない)
③ただし、ijが定まれば(どのタイルか特定すれば)そのタイルの面積は求められる。
④図形SSを囲む四辺形の面積も未だ定義されていない。)

このmn個の長方形の中でS含まれるものだけを取り出して、それらを次のようにおく。

  J'_1,J'_2,・・・,J'_s   J_r\subset S

 またS交わるものだけをとりだして、それらを次のようにおく。

  J''_1,J''_2,・・・,J''_t   J_p\cap S\neq {\phi}

(私見:もし、このJ_p\cap S\neq {\phi}が分かりにくい場合は、次の描像を考えてみるとよい。図形Sを覆う一つの大きな長方形{\Omega}があって、それがmn個の{\omega}に分割されている。そして図形Sの境界線(輪郭)上にある{\omega}は、確かに図形Sと共通部分を持っている。(空集合{\phi}ではない)さらに図形の内側にある{\omega}も共通部分を持っている。著者は「交わる」というが、それは図形S全体を覆い、境界線を含みつつ外側へはみ出しているという描像である)

 すると次のようになる。

  {J'_1,J'_2,・・・,J'_s}\subset {J''_1,J''_2,・・・,J''_t}

そこで次のようにおく。

  |\underline{S}({\mathscr{\small J\normalsize}})|=|J'_1|+|J'_2|+・・・+|J'_s|

   |\overline{S}({\mathscr{\small J\normalsize}})|=|J''_1|+|J''_2|+・・・+|J''_t|

 すると明らかに

   |\underline{S}({\mathscr{\small J\normalsize}})|\le |\overline{S}({\mathscr{\small J\normalsize}})|

(私見:これは図形の包含関係を測度の大小関係へ置換しているのである。ここでS({\mathscr{\small J\normalsize}})というのは、Jの中からタイルを特定する操作を{\mathscr{\small J\normalsize}}として、\overline{S}({\mathscr{\small J\normalsize}})とは図形Sを覆う操作であり、\underline{S}({\mathscr{\small J\normalsize}})が内側に埋める操作である。記号がやたら出るが、あまり難しいことではない。覆うタイルの面積和が、埋めるタイルの面積和より大きいか等しいというだけのことである。Jの定義からタイルが重なっていないことも分かる。)

これではまだ粗いので、分割点の数を増し、タイルを細かくする。
先程のタイルを分割する方法{\mathscr{\small J\normalsize}}は次のとおりである。

   \mathscr{\small J\normalsize}:\left\{ \begin{array}{ll} a=x_0<x_1<x_2<・・・<x_n=b \\ c=y_0<y_1<y_2<・・・<y_n=d \end{array} \right.

 ここで、さらに次のとおりx0とx1との間をさらに細分する。

  x_0<\tilde{x}_1<・・・<\tilde{x}_k<x_1

すると次が成り立つ。

  \underline{S}(\mathscr{\small J\normalsize})\le \underline{S}(\mathscr{\small \widetilde{J}\normalsize)})\le \overline{S}(\mathscr{\small \widetilde{J}\normalsize})\le \overline{S}(\mathscr{\small J\normalsize})

 これは内側を埋めるタイルについては、より細分化したタイルの方が大きく、覆うタイルの方は、より細分化したタイルの方が小さいことを示している。

ジョルダン内測度の定義>

  |S|_{\ast}=\sup\small \underline{\sum}\normalsize

 ジョルダン外測度の定義

  |S|^{\ast}=\inf \small \overline{\sum}\normalsize

 \small \sum\normalsizeとは、S({\mathscr{\small J\normalsize}})という値全体のつくる数直線上の集合である。値全体というのは、{\mathscr{\small J\normalsize}}の取り方(タイルの大きさ)によって様々に値が変わるからである。
したがって内側から埋める\small \sum\normalsizeは上に有界な集合となり、\sup \small \underline{\sum}\normalsizeとあらわす。Jの面積の定義から\small \sum\normalsizeは実数でああるから、実数の連続性から\sup \small \underline{\sum}\normalsizeが存在する。同様に図形Sを覆う\small \sum\normalsizeは下に有界な集合であり、\inf\small \overline{\sum}\normalsizeが存在する。

<面積の定義>

  |S|=|S|_{\ast}=|S|^{\ast}

  ジョルダン内測度と外測度が等しいとき、ジョルダンの意味で面積確定の図形であるという。|S|Sの面積、またはSジョルダン測度という。

ジョルダン測度の性質として有限加法性がある。
有限加法性とは互いに共通点のない有限個の集合S_1,S_2,・・・,S_nがそれぞれ面積をもつならば、和集合S_1\cup S_2\cup・・・\cup S_nも面積をもち

  |S_1\cup S_2\cup・・・\cup S_n|=|S_1|+|S_2|+・・・+|S_n|

 が成り立つという性質である。

(私見:集合の和が、数の加算に置換されていることに留意)
これを示すためには、まず次が常に成り立っていることに注意する。

  |S_1\cup S_2\cup・・・\cup S_n|^{\ast}\le |S_1|^{\ast}+|S_2|^{\ast}+・・・+|S_n|^{\ast}

(なぜなら単位図形を覆う外測度は、全体の外測度より大きい)
  |S_1\cup S_2\cup・・・\cup S_n|^{\ast}\le |S_1|^{\ast}+|S_2|^{\ast}+・・・+|S_n|^{\ast}

               =|S_1|_{\ast}+|S_2|_{\ast}+・・・+|S_n|_{\ast}

               =|S_1\cup S_2 \cup・・・\cup S_n|_{\ast}

   =|S_1\cup S_2 \cup・・・\cup S_n|^{\ast} \ge |S_1\cup S_2 \cup・・・\cup S_n|_{\ast}]

 は明かだから、故に次が成り立つ。

   |S_1\cup S_2\cup・・・\cup S_n|=|S_1|+|S_2|+・・・+|S_n|

(私見:私はこの証明をみてさっぱりワケが分からなかったが、「S_1, S_2,・・・, S_nがそれぞれ面積をもつならば、和集合S_1\cup S_2\cup ・・・\cup S_nも面積をもち」という言葉がたいへん重要だということに留意するとワケが分かった。
つまり、面積をもつかもたないかがポイントである。
面積をもっていれば、ジョルダン測度の定義により内測度と外測度は一致しているのである。また部分の和が全体に等しいのである。だから、次が前提できるのだ。

   |S_1|^{\ast}+|S_2|^{\ast}+・・・+|S_n|^{\ast}=|S_1|_{\ast}+|S_2|_{\ast}+・・・+|S_n|_{\ast}

                                    =|S_1\cup S_2 \cup・・・\cup S_n|_{\ast}

そのことをもって、有限加法性を証明しているのである。

以上ウダウダと書いてきたが、記号は多いものの当たり前すぎて今回はあまり面白くない。
どうもジョルダン測度の考え方には循環論があるような気がしてならないのだ。
内測度と外測度が等しいことが面積確定の図形であるというのが、ジョルダンによる面積の定義なのだが、では図形を測るための単位図形の面積はどうなのかと言いたくなるのである。
単位図形については面積が所与として縦×横で定義されている。だから逆に面積が確定しているから単位図形の内測度と外測度は一致しているというのだ。定義を逆に適用している。
しかもそれをもって有限加法性の証明を行うのである。注意しなければならないのは、有限加法性の証明において内測度と外測度を使用しているのは、部分の和が全体に等しいということだけを証明しているのであって、図形の面積を求めているのではないということだ。
そして証明された有限加法性に基づいて、単位図形の部分の和である全体の内測度と外測度が一致したとき、測ろうとする図形の面積が確定するというのである。
だからジョルダン測度は面積そのものの本質定義ではないように思われる。ただ面積所与の単位図形でもって不定形の図形の面積を求めるための方法に過ぎないようだ。
あまり面白くないというのはそういうことである。

だがそれだとわざわざ議論するまでもないことである。別の意味があるはずだ。部分の和が全体に等しいなどというアホな議論ではないのかもしれない。
証明が直面している状況は、部分の測度は与えられているが全体の測度は与えられていないという状況である。
本書の証明をよく読むと、これは和集合全体の内測度と外測度が一致していることを証明しているのであって、部分が全体に等しいと言っているのではないことがわかる。それは和集合の測度が存在することが証明された結果にすぎない。
つまり、本書が問題にしているのは、集合演算と同じ関係が測度概念についても成立するか否か、これである。
そして、部分について内測度と外測度が一致しているなら、その総和である全体についても内測度と外測度が一致すること、つまり面積が存在することを証明しているのである。それが有限加法性の意味である。そう考えると少し面白い。