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『ルベーグ積分30講』 志賀浩二著(その7)

第6講 ルベーグ内測度

各辺が1の正方四辺形からすべての有理数の点を取り除くと何かが残る。その残ったものをどうやって測るか。この場合、金魚すくいと逆のイメージ(金魚残し?)を考えてみる。どんなに小さな器(区間)を使って水(有理点以外のもの)だけを取り出そうとしても、器(区間)に両端点がある以上、取り除く金魚(有哩点)をよけて水だけを取り出す(測る)ことはできない。必ず金魚(有理点)が器(区間)に入ってしまうから、金魚(有理点)を残して水だけを測ることはできない。しかし、有理数の点集合は測度がゼロであるから、それを残して取り出した水の測度は1にならなければならない。これが解くべき難問である。
本書では書いていないが、私は次のような疑問をもつ。有理数の点が器に入ってしまうのであれば、無理数の大きさの小さな器なら有理数点をよけて、残りを取り出すこと(測ること)ができるのではないか?
だがどんな微小な器であっても点と異なる限り、必ず両端があり、両端が無理数であるとすると異なった二つの無理数ということになる。(両端点が同じ無理数なら容器でなく点になる!)小数点以下のどんなに小さな無理数でも大小関係があれば巨大な自然数nを両方に掛けて整数部分をつくることができる。(整数部分ができるようにnを大きくとることができる)するとその整数部分は異なっているのだから、その中間の大きさの自然数mをつくることができる。そして全体をnでわれば、二つの微小な無理数の間にも有理数\Large\frac{m}{n}\normalsizeが存在することがわかる。つまり、どんな微小な無理数区間を使ってもやはり有理数の点が混入してしまうのである。
これで本書が設定する難問が疑いようもなく難問であることが明確になった。
だが新しい疑問も生じてくる。前々回のカントール集合のように、実数の点集合もまた零集合ということは、無理数の点集合の測度も零である。そうすると四辺形から有理数の点と無理数の点を取り除くと何も残らないはずなのに、その幽霊のような残りの測度が1になるというのはどういうわけか? いったいその測度1の残りのものとは何か?
これについてはもっと先で分かることを期待して進むことにする。いずれにせよ実数を零集合とする以上、実数を点として扱う限り、それを全部取り除いても測度1の何かが残るのは確かなようだ。

この難問についてルベーグ内測度はどうやって解決するか。点を除いても何かが残るはずであれば、その残ったものを点の補集合として扱えばよいという発想である。下の左図は有理数黒点Qを囲む四辺形全体をJとし灰色部分Sを点Qの補集合J-Qとしたものである。
さらに右図の四辺形の灰色部分S1有理数QJより小さいIで囲んだ残りの補集合J-Iである。
すると図から明かなとおり、SS1より大きいからS1\subset Sの包含関係となる。

f:id:sollers:20170518144210j:plain

この包含関係が一番重要なので、1つの点を拡大してみたのだが、全体に拡大しても同じことであり、これが無数にあるというイメージである。
またこのI自体が可算無限個あるのだから、誇張しすぎの大きさであるが、大小の包含関係は不変である。式で表示すれば次のとおりである。

 Q\subset \Large\cup\normalsize_{n=1}^{\infty}I_n  ; \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|<{\varepsilon}

これは右側の図を式表示したものだが、左の式は可算無限個のI有理数Qを覆っていること、右の式はその可算無限個のIの測度が{\varepsilon}より小さいが、\infではないので図でいう白い部分を示している。するとS1\subset Sだから、その包含関係を式表示すると次のようになる。この部分のキモは等号ではなく、包含関係が成り立つということ、つまり有理数点を囲むIを取り除いた後の残り物に福があるというか、とにかく何らかの実体があるということである。

 J-\Large\cup\normalsize_{n=1}^{\infty}I_n\subset S

そして、{\varepsilon}(右図の白い部分)をゼロに近づけていくと、最終的に0になり、包含関係が等号になる。つまり残り物の実体を包含関係として含みつつ、Iを小さくしていくことで左図に近づけていくということである。それはQの外測度IによってSQの補集合)を測ることをSの内測度としていることを意味する。式表示すると次のとおりである。(外測度を補集合の内測度としていることが分かりにくいかもしれないが、最初の図により、点Qを囲むIが小さくなっていくと逆に補集合が大きくなっていくことをイメージすると分かり易い。つまり内側から大きくなっているのだから内測度である。補集合が左図の有理数点に近づいていくということは点以外の空間を埋めつくしているのである)

 m_{*}(S)=|J|-\inf\displaystyle \sum_{n=1}^{\infty}|I_n|=|J|-m^{*}(Q)=1-0=1 
さらに補集合により表示すると次のようになる。

 m_{*}(S)=|J|-m^{*}(J\cap S^c) 

気になるのはSの外測度だが、本書では内測度が1という値をもつと、次のようになるというのである。

 m^{*}(S)=m_{*}(S)=1     
Sの外測度について説明がないので、私にはなぜ外測度が1になるのか、ここはまだ不明なところである。各辺1の四辺形の点を除いたあとの残りを覆うのであるから、外測度が1であることは自明ということだろうか。
(この疑問は次の内測度の性質を読んでいるうちに解決した。すなわち外測度は内測度より大きいか等しい。よって内測度が1J1であるから、外測度が1であることは自明である)

内測度の性質が四つあるが、興味深いのは2番目と4番目である。
まず2番目の性質は次のとおりである。つまり内測度は外測度より小さいか等しいである。

 m^{*}(S)\le m_{*}(S)       
その証明は次のとおり。まずSを囲むJSSの補集合の和とするのである。

   J=S\cup (J\cap S^c)     
両辺の外測度をとると、外測度の劣加法性により次のとおりとなる。

  |J|\le m^{*}+m(J\cap S^c)
あとは両辺を移項すれば証明する式になるのだから省略するが、興味深いのは、内測度と外測度の大小関係が、外測度の劣加法性に根拠があるということである。これは逆に言えるかもしれない、内測度と外測度の大小関係(それは直観的に明らかだ)が外測度の劣加法性(こちらの方が直観的ではない)の根拠になっているのである。
数学が後になると、前の疑問点が解明されてくるとはこのことである。
劣加法性の証明では、I{\varepsilon}より小さく覆うことができるなど直観的でなかったのだが、上の証明を逆に観ると直観的に分かる。
だが内測度の重要な性質が劣加法性に根拠があるのであれば、やはり直接的に理解する必要もある。どうも内測度を補集合の外測度としてとらえることに、劣加法性の原因があるような気がするのだが、もう少し先までみていくことにしよう。
さらに4番目の性質として任意の長方形Iに対し次が成り立つ。

 m_{*}(I)=|I|      
証明は簡単で

 m_{*}(I)=|I|-m^{*}(I\cap I^c)=|I|-m^{*}({\phi})=|I|
    
しかしこのことは自分と自分の補集合との積は空集合だから、四辺形に限らず、面積が分かっている図形Iなら何でも成り立つように思われる。

ルベーグ可測な集合
平面の有限な集合Sが次を充たすとき、Sを可測集合という。

  m^{*}(S)=m_{*}(S)
外測度が0の集合は常に内測度も0でもある(外測度\le内測度)から、零集合は外測度だけ考えればよいことになる。よって零集合の定義は次のとおりになる。
Sが零集合であるための必要十分条件は可算個の長方形Iが存在して次の場合である。

  S\subset \Large\cup\normalsize_{n=1}^{\infty}I_n  ; \displaystyle\sum_{n=1}^{\infty}|I_n|<{\varepsilon}  
これは最初に示した式と同じである。つまり有理点の集合も零集合ということである。
これは、外測度だけで零集合を定義しているということである。(ISを覆うのだから)

さて、ここまできて私は話を直観的に分かり易くするため1つの点で図を描いたが、元々これは不正確である。包含関係を捉えるうえで分かり易くしただけである。
しかし、そもそも個々の有理数点を覆うIがもし存在すれば、それはJの中に重複してしか存在し得ないだろう。すると互いに共通点を持たないIで囲むという条件が守れないのである。
上の式で有理数QIが含むという関係式は、1個の有理点ではない。最初のI={\varepsilon}は複数の有理数点を含むことを許容して、そして\Large\frac{\varepsilon}{2},\frac{\varepsilon}{2^2}・・・と小さくしながら、残りの有理数を覆っていくのである。
だから有理数点の外測度は存在し、それは2{\varepsilon}に収束して0となるのである。
ここでポイントは有理数点の外測度が存在するということである。だから有理数点の補集合である内測度も存在するのである。イメージはあくまで補助でしかないことに留意すべきである。
著者の描いた図13には、1個の有理数だけでなく、2個や3個の有理数を囲んだIが描かれている。なんでだろうと考えているうちにこのことに気がついた。さすが数学者は説明はなくても図は正確である。